追悼
ガレージエムのワンコの方のエムが息を引き取ったらしい。
俺の誕生日に亡くなったそうだ。
初めて会った時は、歳はとっているが、まだまだ元気だった。
正直、飼い主が
コレなので、犬の方もぶっちゃけ賢いとは言い難かった。
人が来ると大声で吠える。
客だろうがなんだろうが、とにかく吠えて走り回る。
人がトイレに行こうとするだけで吠える。
椅子から立ちあがっただけで吠える。
電話が鳴っただけで吠える。
もちろん電話中も吠える。
毎日会っているはずの人間の方のMにも容赦なく吠える。
当然、仕事でやってくる顔なじみの人にも容赦なく吠える。
とにかく吠える!それも全力で!!!
看板犬というか、営業妨害犬に近かった。
※犬が苦手な客は吼えまくるエムに怯えまくっていたそうだ。
僕は犬が好きな方だし、
慣れてくるとそれなりに可愛いと感じるようになってきた。
だが、
ちょっと撫でてやると、際限もなく撫でろと甘えてくる。
無視していると鼻の頭を擦りつけてくる。
その鼻の頭がチョー濡れ濡れなので、ベタベタしまくる。
足元に寄ってきて、しきりに撫でろと要求するせいで、ズボンが毛だらけになる。
人が飲んでいるお茶の氷をよこせと吠えてくる。
※但し、氷をあげすぎると夜中に小便を漏らすらしい。俺は構わずにあげていたけど。
エムを散歩にも連れていくようになった。
ヒゲオにコンビニ袋を渡され、
「これにエムがウンコしたら入れてきて」
と言われるのだが
小出しで、3回に分けて柔らかいのを捻りだしてくるので
毎回苦労した。
(2回目はなんとかいけるが、3回目は正直取るのが超困難!つうか、確実にウンコさわっちゃう!戻るたびにヒゲオに苦情を言うのだが、次の時には忘れているので、コンビニ袋一つで行ってしまう)
散歩の途中に、俺ですらビビってしまう程の
超デカくて真っ黒で獰猛な犬(多分俺よりデカイ)が
壁から顔を突き出し
「きさまぁ!ぶっ殺してやるぅうううう!!!」
級の殺意満点な声で吠えまくるポイントがあるのだが
エムはその犬を挑発するかのように、微動だにせずに
じっと見つめる。
まるで
「へいへいへい!俺様は逃げも隠れもせずにここにいるぜ!」
と、挑発せんばかりだ。
さらに興奮する獰猛犬!
「この野郎!俺が手出しできないからってぇええ!!!チキショウ!絶対にぶっ殺してやるぅううううう!!!」
見兼ねた俺が
「おい、先にいくぞ!」
と引っ張っても、挑発をやめないエム。
帰ってヒゲオに聞くと
「そうやねん、あの犬襲ってこうへんて知ってるから挑発しよんねん」
やっぱりそうなのか!!!
散歩のたびに、毎回挑発するエム。
(うわ、この犬、ヒゲオと一緒でちょっと根性悪いなぁ)
涼しげな顔で挑発するエムを
苦々しい顔で見ていたのだが、今となっては懐かしい。
僕は犬を飼った事はないが
大切な家族を亡くした事はある。
その人は絶対に弱音を吐かない人だったが、
闘病中に病院のベッドで
「こんなに苦しいなら、早く死んで楽になりたい」
と、そっと涙を流して呟くのを聞いた。
僕は何もできない自分が情けなくて涙が止まらなかった。
肝臓が悪かったエムもドンドン痩せていった。
ヒゲオに、絶対に治らないと聞いていたので
「もうちっと我慢しぃや。お迎えがきたら楽になるからな」
と冗談まじりで声を掛けていたが、半分は本気だった。
元気な人にはわからないと思うが
病気がどんなに苦しいのか、どんなに辛いのか
自分の母親の経験からわかっていた。
元気になって欲しい、少しでも長く生きてほしい。
誰でもそう願うのが当たり前だ。
でも、現実はそうはいかない。
覚悟を決めろと言われた時に
オヤジに
「絶対に納得できない!よくそんな覚悟とか言えるよな!」
と、ヒドイ言葉を浴びせかけたが
オヤジは黙って聞いてくれた。
その時、オヤジが泣いているのに気がついた。
初めて見たオヤジの涙だった。
犬はなんにも言えないけど
きっと辛かったと思う。
よく頑張ったよ、エム。
元気な頃にもっと遊んであげれなくてごめんよ。
もうちょいしたらご主人も行くし
俺もいつかはそっちに行くから
そん時は元気に吠えて迎えてくれよ!!!
この記事をエムに捧ぐ。